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36協定の形骸化リスクと、特別条項を適用する際の厳格な要件

 9月は、上期の締めくくり(中間決算など)に向けて、多くの企業で業務が繁忙期を迎える時期です。業務量が増えるにつれて懸念されるのが、従業員の「残業(時間外労働)」です。ご存知の通り、会社が従業員に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業をさせるには、労働基準法第36条に基づく「36(サブロク)協定」の締結と労働基準監督署への届け出が絶対に不可欠です。しかし、多くの現場で36協定が「毎年なんとなく出して終わり」の形骸化した書類になっているケースが目立ちます。法改正による罰則付きの上限規制が定着した現在、36協定違反は即座に刑事罰の対象となる重大なリスクです。今回は、経営者が改めて確認すべき36協定の厳格な実務ルールについて解説します。

1. 「出していれば安心」ではない!36協定の絶対的な上限規制

 かつては36協定を締結し、厚生労働省の基準を守っていれば、実質的に上限なく残業をさせることができる時代もありました。しかし、働き方改革関連法の施行以降、中小企業であっても、時間外労働(残業)の長さには法律上の「絶対的な上限(法律の壁)」が設けられています。

 基本ルールとして、残業時間は原則として「月45時間・年360時間」までしか認められません。これを超えて残業をさせた場合、たとえ36協定を届け出ていても、それだけで労働基準法違反となり、経営者や会社に対して「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります。労基署からの指導(是正勧告)にとどまらず、即座に前科がつくリスクがあることを、経営トップは強く認識しなければなりません。

2. 繁忙期を乗り切るための「特別条項(とくべつじょうこう)」の正しい使い方

 「どうしても月45時間では業務が回らない月がある」という場合のために、36協定には臨時の過度な繁忙期に限り、上限をさらに引き上げることができる「特別条項」という仕組みがあります。ただし、これを利用するには非常に厳格な実務上の要件を満たす必要があります。

要件①:通常予見できない、臨時的な必要性があること

 「いつも忙しいから」「万年人手不足だから」といった理由は認められません。「取引先の仕様変更による大規模な突発対応」「決算期の集中する業務」など、具体的な理由を協定届に記載する必要があります。

要件②:特別条項を適用できるのは「年6回」まで

 月45時間を超えることができるのは、1年のうち「6ヶ月(6回)」が限度です。それ以外の月は、どんなに忙しくても45時間以内に収めなければなりません。

要件③:特別条項適用時であっても超えられない「4つの絶対枠」

 特別条項を使う場合でも、以下の時間を1分でも超えることは違法(即、刑事罰)となります。

⒈時間外労働が「年720時間」以内

⒉時間外労働と休日労働の合計が「月100時間未満」

⒊時間外労働と休日労働の合計の平均が、どの2ヶ月〜6ヶ月の平均をとっても「すべて80時間以内」(過労死ラインの厳格化)

3. 現場の「勤怠管理のずさんさ」が会社を滅ぼす

 36協定の上限を守るために最も重要なのは、いうまでもなく「従業員の労働時間の正確な把握」です。現場のマネージャーが、上限を超えそうになった従業員に対して「今月のタイムカードはここで切って、あとはサービス残業にしておいて」などと指示するケースが今でも後を絶ちません。これは36協定違反(労働基準法違反)に加えて、労働時間の「記録改ざん」という極めて悪質な行為とみなされ、労基署の合同調査(ガサ入れ)が入る引き金となります。現代の労働裁判や労基署の調査では、タイムカードだけでなく、パソコンのログオン・ログオフ履歴、オフィスの入退館記録、業務メールの送信履歴などから、実態としての労働時間が厳密に算出されます。「嘘の記録」でごまかすことは不可能です。

まとめ:形骸化した36協定を見直し、適法な労務管理を

 9月の繁忙期を迎える前に、自社が提出している36協定の内容(特に上限時間や特別条項の文言)が、現在の自社の実態、そして最新の法律に完全に合致しているか、今一度点検してください。また、現場の残業時間が「過労死ライン(月80時間)」に近づいていないか、経営層が直接チェックする仕組みが必要です。当事務所では、企業の業務実態に合わせた適切な36協定の作成・見直しのアドバイスから、労基署の調査が入った際の立ち会い・対応サポート、労働時間管理システムの適法性チェックまで、中小企業の人事労務を強力にサポートしております。労務管理に少しでも不安をお持ちの経営者様は、トラブルが起きる前にぜひご相談ください。

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