いよいよ新年度がスタートする4月。新たな人材を迎えるにあたり、社内も活気に満ちていることと思います。採用活動を経て無事に新入社員を迎え入れられたことは、企業の成長にとって大変喜ばしいことです。
しかし、入社時の労務管理をおろそかにすると、後々「言った・言わない」の水掛け論になり、早期退職、SNSでの炎上、情報漏洩、あるいは問題社員化といった深刻なトラブルに発展するリスクが潜んでいます。今回は、新入社員との間でトラブルを未然に防ぐための「雇用契約書」と「誓約書」の必須チェックポイント、そして試用期間の法的な注意点について、実務的な視点から解説します。
1. 雇用契約書(労働条件通知書)の絶対的記載事項とよくある不備
労働基準法により、企業は労働者を雇い入れる際、賃金や労働時間などの重要な労働条件を書面等で明示することが義務付けられています。中小企業でよく見受けられるのが、インターネット上の無料テンプレートをそのまま使い、自社の実態と合っていないケースです。以下の2点は特にトラブルになりやすいため、必ず確認してください。
● 固定残業代(みなし残業代)の記載不備 「基本給25万円(残業代込み)」といった曖昧な記載は、法的に固定残業代として認められない可能性が極めて高いです。
認められない場合、後から未払い残業代として数百万円単位の請求を受けるリスクがあります。固定残業代を採用する場合は、「基本給〇〇円、固定残業代(〇時間分として)〇〇円」など、通常の労働時間の対価となる部分と時間外労働の対価となる部分とを明確に区分し、超過分は別途支給する旨を明記する必要があります。
● 「就業場所・業務の変更の範囲」の明示(2024年4月改正) 2024年4月より、労働条件通知書には「雇い入れ直後の就業場所・業務内容」だけでなく、「将来の配置転換などで変更される可能性がある範囲」の明示が義務付けられています。
この記載が漏れていると、将来的に適法な配置転換や異動ができなくなるおそれがあるため、最新の法令に対応した書式になっているか今一度チェックしましょう。
2. 「入社時の誓約書」で防ぐ!SNS炎上と機密情報漏洩リスク
現代の労務管理において、雇用契約書と同様に重要なのが「入社時の誓約書」です。特に、デジタルネイティブであるZ世代の新入社員に対しては、情報管理に対する認識のズレを埋めるための明確なルール提示が不可欠です。
「会社の秘密を漏らさないでね」と口頭で伝えるだけでは、法的な拘束力は弱く、万が一の際に損害賠償請求や懲戒処分を行う根拠が乏しくなります。誓約書には、以下の項目を具体的に盛り込むことを強くお勧めします。
● 秘密保持義務(NDA)と対象情報の特定 顧客の個人情報、取引先のデータ、社外秘のマニュアルなど、何が「秘密情報」に該当するのかを明確に定義し、在職中だけでなく退職後も漏洩を禁じる旨を記載します。
● SNS利用ガイドラインの遵守 個人のSNSアカウントであっても、業務に関する投稿、社内や顧客が特定できる写真の投稿、企業への誹謗中傷を禁じる項目を設けます。これは、不用意な投稿による「バイトテロ・社畜アピール」などの炎上リスクから企業ブランドを守るための強力な防波堤となります。
3. 本採用拒否(試用期間中の解雇)をめぐるトラブルと法的要件
「試用期間中であれば、会社に合わないと判断したら簡単に解雇(本採用拒否)できる」と誤解されている経営者の方は少なくありません。
しかし、法的には試用期間であっても「解約権留保付労働契約」という労働契約がすでに成立しています。そのため、本採用を拒否するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる必要があります。「なんとなく社風に合わない」、「期待していたより仕事が遅い」といった抽象的な理由での解雇は、不当解雇として無効とされるリスクが非常に高いです。
もし、能力不足や勤務態度の不良が見られる場合は、「いつ、どのような指導を行い、本人がどう改善(あるいは改善しなかった)か」という指導記録を客観的な証拠として残しておくことが極めて重要です。適切な指導を尽くしてもなお改善の見込みがないと客観的に証明できて初めて、本採用拒否の正当性が認められやすくなります。
まとめ:入社時の書面整備は最大の労務トラブル予防策
新入社員の入社手続きは、単なる事務作業ではありません。企業と労働者が対等かつ良好な関係を築き、将来の労務トラブルを防ぐための重要な手続です。自社の契約書や誓約書に少しでも不安がある場合は、トラブルが顕在化する前に、弁護士によるリーガルチェックを受けることをお勧めします。
当事務所では、最新の法令や御社の実態に合わせた雇用契約書・誓約書の作成、就業規則の見直し、問題社員への対応など、中小企業の人事労務を強力にサポートしております。新年度の労務管理でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
